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【アマビエブックス #14】梯久美子『サガレン 樺太/サハリン 境界を旅する』

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穂崎萬大。こすぎナイトキャンパス企画運営担当。本の燕居堂店主。

【書名】『サガレン 樺太/サハリン 境界を旅する』(KADOKAWA)
【書名】梯久美子
【刊行年】2020年

樺太/サハリン、旧名はサガレン。いまもってこの島は国際法上はどの国にも帰属していない。日本の高校で使われている地図帳では、国境線が2本引かれている。一本は宗谷海峡、もう一本はサハリン島を横切る北緯50度線である。北緯50度線以南の土地は白地、すなわちどの国にも属していないことを示している。

サハリン島の歴史は、この一事をもってしてもいろいろと微妙な背景というか歴史的経緯が想像できる(じっさいにその通りなんだけど)。
そんなこの島を、明治以降何人かの作家・詩人たちが訪れた。林芙美子、北原白秋、斎藤茂吉、宮沢賢治など。そうそうチェーホフもいた。ある者は陸の〈国境線〉を観光しに、またある者は死んだ身内の〈魂〉を求めて。彼らの足跡は、島を縦断する鉄道に刻まれていた。

自らも〈鉄オタ〉と称する著者が彼らの足跡をなぞって鉄道旅行したのが、この本だ。サハリン鉄道紀行文である。第一部と第二部とに分かれて、それぞれサハリン鉄道旅行が語られる。
第一部はサハリン最大都市ユジノサハリンスクを出発して島を南北に貫く東部鉄道を北上し、終着駅ノグリキに至る613キロの旅をする。著者は列車に揺られながら、現在のサハリン鉄道の様子を描きつつ、かつて同じ旅程をとった作家たちの足跡をなぞっていく。

第二部は、同じくこのサハリンを訪れたという宮沢賢治の旅程をたどりながら、彼がその旅で感じたこと思考したことをトレースしていく。一種の宮沢賢治論になっている。

一般に、宮沢賢治がこのサハリンに来た理由は、妹のトシが亡くなり、彼女の魂の行方を追い求めたという説が有力である。しかし著者は同じ〈鉄オタ〉としてその説を退ける。彼は鉄道に乗ってみたかったのだんだろう、と著者は考える。
その真偽はさておき、著者はサハリン島での賢治の足跡をたどり、彼が見ただろう風景を見て、トシの魂を追い求めるということはどういうことかを考える旅にでる。『銀河鉄道の夜』『春と修羅』といった、サハリン旅行をモチーフにした作品をもひもときながら、著者は丁寧にたどる。賢治論そのものでもあるし、賢治作品のガイドにもなっている。

さて、妹の魂を追い求めるとはどういうことか。列車の揺れとサハリンの風景に囲まれて、著者はぼくらをゆっくりと誘ってくれる。

※写真はイメージです。

 

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