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【アマビエブックス #59】大崎善生『聖の青春』

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穂崎萬大。こすぎナイトキャンパス企画運営担当。本の燕居堂店主。

【書名】『聖の青春』(講談社文庫)
【著者】大崎善生
【刊行年】2002年

1998年8月、膀胱ガンのためにひとりのプロ棋士が夭折した。
村山聖(さとし)、享年29。
本書は、家族やライバルの証言を丹念に拾いつつ、「関西の怪童」と呼ばれた村山聖の短い生涯を追いかけたものだ。

村山は、一大旋風を巻き起こした羽生善治、佐藤康光らいわゆる「天才チャイルド」棋士軍団の一翼を担っていたが、彼らの中でも際立って異彩を放つ存在だった。
彼は、まず勝負師として生きるのに重大なハンデを背負っていた。5歳のときに罹ったネフローゼである。成人しても頻繁に高熱がでた。
だからといって、彼は対局しないことを極端に嫌った。彼の目標は名人位に就くことそれだけであり、そのためには、一段一段段位を積み上げて、ライバルを蹴落としていくしか方法がなかったのだ。

じつは、村山が将棋に出会ったのは6歳のとき、この病気の療養中だった。更に言うなら、森信雄という生涯唯一の師匠に出会ったのも、病気のお蔭だと言ってもいい。
この師匠、将棋では一度も弟子に勝てなかったが、師弟関係はじつに濃密でユニークだった。不精な弟子の頭を洗い、下着まで洗濯してやった。欲しがる少女マンガ本を探しに古本屋へ通いつめ、村山が高熱で臥せったときには徹夜で付き添った。

1995年、村山は名人位も狙えるA級八段に昇格したが、けっきょくそれが最高位で終わった。
「神様に願うことは」とアンケートで聞かれて、村山は一言こう答えている。
「神様除去」。

ただ勝つために、生命のあるうちに名人位に就くためだけに、村山は戦った。潔く羨ましい人生だった。生き急いだ、そんなことは言わせない。

AmazonではもうKindle版しか在庫がなかった。いい作品なだけに、長く読まれて欲しい。

 

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