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【アマビエブックス #60】カズオ・イシグロ『忘れられた巨人(The Buried Giant)』

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穂崎萬大。こすぎナイトキャンパス企画運営担当。本の燕居堂店主。

【書名】『忘れられた巨人(The Buried Giant)』(早川書房)
【著者】カズオ・イシグロ
【刊行年】2017年

『わたしを離さないで』からもう10年以上。
そういうささやかな感慨を持ってページを開くと、そこには6世紀のブリテン島(グレード・ブリテン島)の風景が広がっている。前作もそうだったが、イシグロの世界では、読み手はあらかじめ〈地図〉を持たされない。

だから、今回もその風景が信用できず、どこかでひっくり返るに違いないと思いつつ、読み手はつい先を急いでしまう。
諸兄、急がぬがよろしい。
急く心では、アーサー王が支配し魔術師マーリンが跋扈した世界の生き物たちの息づかいは、なかなかに感じられないだろうから。

その世界では、アクセルとベアトリスと呼ばれた老夫婦が、息子を探す旅にでかけている。息子が暮らしているだろう村へと、ふたりは向かう。息子のもとなら、いまよりもいい暮らしができるだろうと。

彼らが住まう世界は、〈霧〉でつつまれて、わずかまえのあったはずの人々の記憶を封じ込めてしまっている。息子はなぜ自分たちの傍から離れてしまったのか、この霧さえ晴れれば記憶は戻ろうものを。
その〈霧〉は、クエリグという竜が吐いている息だという。
黙黙と息子の村を目指す老夫婦に、さまざまな出会いが待っている。竜退治に向かう戦士、呪いの傷を受けた少年、アーサー王の老騎士・・・。

さて、〈地図〉を持たぬ読み手は、いささか困惑の表情を見せつつこの物語に付き合っていくことになるだろう。なぜなら、前作『わたしを離さないで』で見せられた〈地図〉こそは、わたしたち読み手の〈裏〉を掻いたのだから、この作品に、さてさて、その〈企み〉はいずこにあるのかと。

いってしまおう、全編これ、ファンタジーなのである。
そして、「記憶」と「夫婦愛」の物語でもある。
だが、待ってくれ、もっと言わなければならないことがある。ほんとうはそれだけじゃないのだ。

なのに、〈霧〉がわたしの邪魔をする・・・。

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穂崎萬大。こすぎナイトキャンパス企画運営担当。本の燕居堂店主。

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